2012年5月10日木曜日

身体表現性障害(こころの病気のはなし/専門編)


身体表現性障害は、痛みや吐き気、しびれなどの自覚的な何らかの身体症状があり、日常生活が妨げられており、自分でその症状をコントロールできないと考えている病態を指しています。

ブリケ症候群、ヒステリー、心因性疼痛と呼ばれることもあり、おそらく不安に結びついているものとされています。

異常が示唆されるような身体の問題を訴え検査を行うものの、異常は見あたらないという結果が出るものや、自分の外見に欠陥があると思いこむもの、自分が深刻な病気にかかっているのではとこだわってしまうものなど、さまざまな精神疾患が含まれます。

 

症 状

この障害には、激しい苦痛や欠陥を引き起こすほどの痛みの訴えが中心で、そのために仕事ができなくなったり、鎮痛剤や精神安定剤に依存したりすることもある「疼痛性障害」、生理的には正常であるにもかかわらず、腕や脚の麻痺や発作や筋肉の協調運動の障害、皮膚感覚の違和感、痛みに対する感覚欠如などを体験する「転換性障害」、さまざまな身体症状が数年間にわたって持続している「身体化障害」、自分が深刻な疾患に罹患しているのではないかという恐怖感や考えにとらわれ、医学的に問題がないにもかかわらず、いつまでも疾患にこだわってしまう「心気症(心気障害)」、想像上のまたは誇張された身体的外見の欠陥についてとらわれてしまう「身体醜形障害」があります。

DSM-W-TRでは、「一般身体疾患を示唆する身体症状で、それが一般身体疾患、物質の直接的な作用、または他の精神疾患によって完全には説明されないもの」と定義され、ICD-10では、「所見は陰性が続き症状にはいかなる診断基盤でもないという医師の保証にもかかわらず、医学的探索を執拗に要求するとともに繰り返し身体症状を訴えるものである」と、医師―患者関係にまで言及してかなり詳細な特徴が定義されている。

 

疫 学

疼痛性障害は、女性に多く、その症状の経過の背景には心理社会的な問題が関わっていることがあると言われています。転換性障害は、通常、思春期から成人期初期にかけて発症し、その確率は1%未満で、男性よりも女性に多く見られます。治療の必要がないような程度のものも含めれば、有病率は高いと言われています。身体化障害は、30歳以前にさまざまな身体症状が起こり、数年以上持続しています。その確率は0.5%未満で、成人期初期に通常発症し、男性よりも女性に多く見られます。

心気症(心気障害)は、成人期前期に発症するのが典型であり、男性と女性のどちらにも生じるとわかっています。慢性の経過をたどる場合があることや気分障害や不安障害と合併することもあると言われています。身体醜形障害は、女性に生じることが大半であり、典型的には青年期後期に発症します。外見の中でも、たとえば女性は、肌や臀部、胸部、足などに固執しがちであったり、男性は、身長や性器、体毛などについての思い込みに関するとらわれが多いとされており、主観的な問題や好みが重要な役割を果たしています。

また、気分障害や社会不安障害、パーソナリティ障害と合併することもあると言われています。

 

原 因

もともと、身体感覚に敏感で悲観的にとらえやすい繊細な人がなりやすいほか、心身の過労(たとえば親の介護疲れや過度の残業など)や身辺の環境変化(たとえば職場異動や引越、近親者との死別など)がストレスになっていることを認識しにくく、言語化できない人の場合に身体症状として表れることがあると言われています。

たとえば、転換性障害の場合、精神分析理論では、症状の背景には、無意識の過程が働いていると考えています。幼少期からの強い抑圧が、精神エネルギーを無感覚症や麻痺などに変換したり転換させてしまうと仮定されています。他にも、行動主義の理論では、症状から得られる疾病利得や強化が背景にあり、症状の存在から他の人から注目を浴びたり、現在の不快な生活状況やストレスを軽減できたり回避できてしまうような肯定的な結果が得られていることも症状の維持につながっている可能性も指摘されています。

 

治 療

現在では、柔軟に支持的に助言するような心理療法などの精神科的治療や薬物療法、職場や家庭などの環境調整が考えられており、薬物療法以外の基本的な対応を学ぶことも重要だと言われています。心理療法では、その方がどんな問題を抱えているのか、不安感や抑うつ感に苦しんでいることにも留意しながら、丁寧に身体的健康に関する気がかりをうかがい、ストレスの原因となっている環境調整や、ストレス対処法を身につけていくことを目指します。

他に、心身相関についての気づきを促すような心理教育やリラクセーション法の教示、症状改善に向けてより多くのメリットが得られるような計画の立案、過去に解決されなかった体験への直面化から葛藤のカタルシスを得て症状が楽になるような精神分析理論に基づくアプローチ、再発防止のために悲観的な思考の再構成や症状への注目のしやすさに気づきを促す認知行動療法などがあります。また、精神疾患を合併している場合には、薬物療法(抗不安薬や睡眠薬など)を行うこともあり、有用だと言われています。

基本的な治療対応法には、


黄熱病を治した人
  • たとえ、明らかな身体疾患や精神疾患が発見されなかったとしても、その人にとって症状が現実のものであることに理解を示し、自尊心に配慮する
  • 症状を完全に除去しようとするよりも、症状への対処法をより良いものに改善し、耐性を高める
  • 定期的な受診日を設定し、具合の悪いときに受診するという形を避けるようにする
  • 時に家族の協力も得ながら生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促す
  • 過剰な薬物の処方や検査を避ける

などがあります。

 

診断基準

DSM-W-TR ICD-10
コード番号 300.8,300.11,300.7, コード番号 F45
身体表現性障害(Somatoform disorders) 身体表現性障害(Somatoform disorders)

診察や検査所見は繰り返し陰性で症状には身体的基盤はないという医師の保証にもかかわらず、さらなる医学的検索を執拗に要求するとともに、繰り返し身体症状を訴えるもの。

<鑑別診断>通常、心気妄想との鑑別は、患者をよく知ることによってできる。信念が長く続き、根拠がないようにみえても、話し合い、保証、別の検査や検索の実施によって、確信の強さは通常短期間、ある程度は影響を受ける。そのうえ、不快でおびやかされる身体感覚の存在は、身体疾患に違いないという確信が持続する。

<除外>解離性障害、抜毛、舌たらず、舌もつれ、爪かみ、他に分類される障害あるいは疾患と関連した心理的あるいは行動的要因、性機能不全、器質性の障害あるいは疾患によらないもの、指しゃぶり、トゥレット症候群、抜毛症

身体化障害
Somatoform disorders
身体化障害
Somatoform disorders
  1. 30歳以前に多数の身体的愁訴の病歴が始まる。それは数年間にわたって持続しており、その結果治療を求め、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の著しい障害を引き起こしている。
  2. 以下の1から4の基準各々をみたしたことがあり、個々の症状は障害の経過中の時点で生じている。
  1. 4つの疼痛症状:少なくとも4つの異なった部位または機能に関連した疼痛の病歴(頭部、腹部、背部、関節、四肢、胸部、直腸;月経時、性交時または排尿時など)
  2. 2つの胃腸症状:疼痛以外の少なくとも2つの胃腸症状の病歴(例:嘔気、妊娠時以外の嘔吐、鼓腸、下痢、または数種類の食物への不耐性)
  3. 1つの性的症状:疼痛以外の少なくとも1つの性的または生殖器症状の病歴(例:性的無関心、勃起または射精機能不全、月経不順、月経過多、妊娠中を通じての嘔吐)
  4. 1つの偽神経学的症状:疼痛に限らず、神経学的疾患を示唆する少なくとも1つの症状または欠損の病歴(協調運動または平衡の障害、麻痺または部分的な脱力、嚥下困難または喉に塊がある感じ、失声、尿閉、幻覚、触覚または痛覚の消失、複視、盲、聾、けいれんなどの転換性症状;記憶喪失などの解離性症状;または失神以外の意識消失)

 

  1. 1.か2.のどちらか:
  1. 適切な検索を行っても、基準Bの個々の症状は、既知の一般的身体疾患または物質(例;薬物乱用、投薬)の直接的な作用によって十分に説明できない。
  2. 関連する一般身体疾患がある場合、身体的愁訴または結果として生じている社会的、職業的障害が、既往歴、身体診察所見、または臨床検査所見から予測されるものをはるかに超えている。
  1. 症状は、(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。

確定診断のためには、以下のすべてが必要である。

  1. 適切な身体的説明が見出せない。多発性で変化しやすい身体症状が少なくとも2年間存在する。
  2. 症状を身体的に説明できる原因はないという、数人の医師の忠告あるいは保証を受け入れることを拒否しつづける。
  3. 症状の性質とその結果としての行動に由来する、社会的および家族的機能のある程度の障害。多訴性症候群や多発性心身性障害を含める。

 

診断においては、以下の障害との鑑別が重要


頭痛をグルタミン酸
  1. 身体疾患:身体化障害が長く続く患者では、その人と同年齢の人と同じ割合でそれとは別の身体疾患が発症する可能性がある。もしそのような身体疾患を示唆するような、身体的愁訴の焦点や恒常性の変化があるならば、追加の検索や診察を考慮しなければならない。
  2. 感情(うつ病性)および不安障害:一般にさまざまな程度の抑うつや不安は身体化障害に随伴するが、診断が妥当であるほどに症状が十分顕著でも持続的でもなければ、別個に特定する必要はない。40歳以降の多発性の身体症状の発症は、原発性うつ病性障害の早期兆候であることがある。
  3. 心気障害:身体化障害では、症状それ自体とそれらの個々の影響が強調され、症状を取り除くための治療を求めるが、心気障害においては、注意はより多く、基底にある進行性で深刻な疾患過程の存在と、それが結果としてもたらす障害に向けられる。基底にある疾患の性質を決定あるいは確証するための検索を求める傾向がある。この患者は薬物とその副作用をおそれ異なる医師を頻繁に受診することで安心を得ようとする。
  4. 妄想性障害(身体に関する妄想を伴う統合失調症および心気妄想を伴ううつ病性障害など):より一定した性質の、より数少ない身体症状をもった奇異な性質の信念が、最も典型的なものである。短期間の(たとえば2年未満)それほど目立たない症状パターンは鑑別不能型身体表現性障害に分類するほうがよい。
【鑑別不能型(分類困難な)身体表現性障害】
Undifferentiated somatoform disorder

身体的愁訴が多発性で変化し持続的であるが、身体化障害の完全で典型的な臨床像をみたさない。たとえば、強烈で劇的な訴え方を欠き、訴えが比較的少なく、あるいは社会や家族の一員としての機能に支障がまったくないということがある。心理的原因を仮定する根拠がある場合もない場合もあるが、精神科的診断の根拠となる症状には身体的基礎があってはならない。

もし身体的障害が基礎にある明らかな可能性が依然として存在するか、あるいはもし診断的なコード化の時点で精神科的評価が完全でないならば、ICD-9の適切な他のカテゴリーを使用すべきである。鑑別不能な心身性障害を含める。

【鑑別不能型身体表現性障害】
Undifferentiated Somatoform Disorder
【他の身体表現性障害】
Other somatoform disorders
  1. 1つまたはそれ以上の身体的愁訴(例:倦怠感、食欲減退、胃腸系または泌尿器系の愁訴)
  2. 1か2のどちらか:
  1. 適切な検索を行っても、その症状は、既知の一般的身体疾患または物質(例;薬物乱用、投薬)の直接的な作用によって十分に説明できない。
  2. "関連する一般身体疾患がある場合、身体的愁訴または結果として生じている社会的、職業的障害が、既往歴、身体診察所見、または臨床検査所見から予測されるものをはるかに超えている。
  1. 症状が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の著しい障害を引き起こしている。
  2. 障害の持続期間は、少なくとも6カ月である。
  3. その障害は、他の精神疾患(例:他の身体表現性障害、性障害、気分障害、不安障害、睡眠障害、または精神病性障害)ではうまく説明されない。
  4. 症状は、(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。

訴えられる愁訴は自律神経系を介さず、特定の系統や身体部位に限られている。このことは、身体化障害と鑑別不能型身体表現性障害にみられる、症状や苦悩の原因についての多様でしばしば変化する愁訴とは対照的である。

組織の損傷は認められない。身体化障害に起因せず、ストレスの多い出来事や問題と時期的に密接に関連し、あるいは結果的に個人的であれ医療的であれ、患者への注意が著しく増大するいかなる感覚障害もここに分類すべきである。

一般的な例:膨張した感覚、皮膚を何かが動く感覚、異常知覚(うずきおよび/またはしびれ)


十代の若者たちの胸の痛みの原因
  1. 「ヒステリー球」(嚥下障害を引き起こす咽頭部にかたまりがある感じ)、および嚥下障害の他の型
  2. 心因性斜頚、および他の痙性の運動障害(トゥレット症候群を除く)
  3. 心因性掻痒症(しかし心因性の起源をもつ脱毛症、皮膚炎、湿疹あるいはじん麻疹のような特異的な皮膚の病変を除く)
  4. 心因性月経困難(しかし性交疼痛症と冷感症を除く)
  5. 歯ぎしり
【転換性障害】
Conversion Disorder
【身体表現性自律神経機能不全】
Somatoform autonomic dysfunction
  1. 神経疾患または他の一般身体疾患を示唆する。随意運動機能または感覚機能を損なう1つまたはそれ以上の症状または欠陥
  2. 症状または欠陥の始まりまたは悪化に先だって葛藤や他のストレス因子が存在しており、心理的要因が関連していると判断される。
  3. その症状または欠陥は、(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。
  4. その症状または欠陥は、適切な検索を行っても、その症状は、一般的身体疾患によっても、または物質(例;薬物乱用、投薬)の直接的な作用としても、または文化的に容認される行動または体験としても、十分に説明できない。
  5. その症状または欠陥が、著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の著しい障害を引き起こしている。または、医学的評価を受けるのが妥当である。
  6. その症状または欠陥は、疼痛または性機能障害に限定されておらず、身体化障害の経過中にのみ起こってはおらず、他の精神疾患ではうまく説明されない。

運動性の症状または欠陥を伴うもの(協調運動または平衡の障害、麻痺または部分的脱力、嚥下困難または"喉に塊がある感じ"、失声、および尿閉)

感覚性の症状または欠陥を伴うもの(触覚または痛覚の消失、複視、盲、聾、および幻覚)

発作またはけいれんを伴うもの(自発運動性または感覚性要素を伴った発作またはけいれんが含まれる)

混合性症状を示すもの(2つ以上のカテゴリーの症状が明らかな場合)

患者の示す症状は、あたかもそれらが大部分あるいは完全に自律神経の支配とコントロール下にある系統や器官、すなわち心血管系、消化器系、呼吸器系の身体疾患によるかのようである(生殖器泌尿器系のある面もまたここに含まれる)。

最も一般的で目立つ例は心血管系(「心臓神経症」)、呼吸器系(心因性過呼吸と吃逆)、消化器系(「胃神経症」と「神経性下痢」)が障害される。症状には2つの型があり、そのどちらも関与する器官あるいは系統の身体疾患を示すものではない。

  1. この診断の大部分がこれによるが、動悸、発汗、紅潮、振戦のような他覚的な自律神経亢進徴候に基づく愁訴によって特徴づけられる。
  2. 一過性の鈍痛や疼痛、灼熱感、重たい感じ、しめつけられる感じや、膨れ上がっている、あるいは拡張しているという感覚などの、より特異体質的な、主観的で非特異的な症状によって特徴づけられる。これらの症状は患者によって特定の器官ないし系統に関連づけられる。

これらの疾患では、鼓張、過呼吸のような生理学的機能のわずかな障害が存在することもあるが、それ自体で当該の器官や系統の本質的な生理学的機能を乱すことはない。特徴的な臨床像を形成するのは、明らかな自律神経の関与、付加的で非特異的な主観的愁訴、そして特殊な器官あるいは系統が疾患の原因として執拗に言及されることである。

確定診断のためには、以下のすべてが必要である。

  1. 動悸、発汗、紅潮のような持続的で苦痛を伴う自律神経亢進症状。
  2. 特定の器官あるいは系統に関連づけられる付加的な主観的症状。
  3. 訴えのある器官あるいは系統の重篤な(しかししばしば特定不能の)障害の可能性に関するとらわれと苦悩で、医師が説明と保証を繰り返しても反応しないもの。
  4. 訴えのある系統あるいは器官の構造あるいは機能に明らかな障害の証拠がないこと。

診断においては、以下の障害との鑑別が重要


  1. 全般性不安障害:不安障害の自律神経亢進は、恐怖や不安な予感のような心理的構成要素が優勢であること、そしてその他の症状については固定した身体的焦点がないことによって可能である。
  2. 身体化障害:この障害においては自律神経症状は生じるが、それらは他の多くの感覚や感情に比べて優勢でも持続的でもなく、それほど持続的に1つの器官や系統に所属する症状ではない。
【疼痛性障害】
Pain Disorder
【持続性身体表現性疼痛障害】
Persistent somatoform pain disorder
  1. 1つまたはそれ以上の解剖的部位における疼痛が臨床像の中心を占めており、臨床的関与が妥当なほど重篤である。
  2. その疼痛は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  3. 心理的要因が、疼痛の発症、重症度、悪化、または持続に重要な役割を果たしていると判断される。
  4. その症状または欠陥は、(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。
  5. 疼痛は、気分障害、不安障害、精神病性障害ではうまく説明されないし、性交疼痛症の基準を満たさない。

急性 持続期間が6カ月未満

慢性 持続期間が6カ月以上

心理的要因と関連した疼痛性障害、心理的要因と一般的身体疾患の両方に関連した疼痛性障害、一般的身体疾患と関連した疼痛性障害

主な愁訴は、頑固で激しく苦しい痛みであり、それは生理的過程や身体的障害によっては完全には説明できない。痛みは、主要な原因として影響を及ぼしていると十分に結論できる情緒的葛藤や心理的社会的問題に関連して生じる。結果的には、個人的であれ、医療的なものであれ、援助を受けたり注意を引いたりすることが著明に増える。

うつ病性障害や統合失調症の経過中に生じる心因性起源と推定できる痛みはここに含まれない。精神−生理学的メカニズムが知られている、推論できるものに起因するものの、なお心因性の原因も関与していると考えられている痛みは、F54「他に分類される障害あるいは疾患に関連した心理的あるいは行動的要因」にICD-10の他のコードを加えてコードすべきである。精神痛、心因性背部痛あるいは頭痛、身体表現性疼痛障害が含まれる。

診断においては、以下の障害との鑑別が重要

最もよく出会う問題はこの障害を、器質的に引き起こされた痛みの演技的な修飾から鑑別することである。

まだ明確な身体的診断にいたっていない患者は、おそれたり憤慨したりしやすく、結果として注意を引こうとする行動をとることがある。さまざまな疼痛は身体化障害ではふつうであるが、他の愁訴より持続的ではないか、あるいは優勢ではない。

  1. 特定不能の背部痛、特定不能の(急性/慢性)疼痛
  2. 緊張性頭痛
【心気症】
Hypochondriasis
【心気障害】
hypochondriacal disorder
  1. 身体症状に対するその人の誤った解釈に基づく、自分が重篤な病気にかかる恐怖、または病気にかかっているという観念へのとらわれ
  2. そのとらわれは、適切な医学的評価または保証にもかかわらず持続する。
  3. 基準Aの確信は(「妄想性障害、身体型のような)妄想的強固さがなく、(身体醜形障害のような)外見についての限られた心配に限定されていない。
  4. そのとらわれは、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  5. 障害の持続期間が少なくとも6カ月である。
  6. そのとらわれは、全般性不安障害、強迫性障害、パニック障害、大うつ病エピソード、分離不安、または他の身体表現性障害ではうまく説明されない。

洞察に乏しいもの(重大な病気にかかっているという心配が過剰である。または不合理であるということを、現在のエピソードのほとんどの期間、その人が認識していない場合

本質的な病像は、1つ以上の重篤で進行性の身体疾患に罹患している可能性への頑固なとらわれである。患者は執拗に身体的愁訴、あるいは彼らの身体的外見へのとらわれを示す。

正常かふつうの感覚や外見が、患者にとっては異常で苦悩を与えるものと解釈されることがしばしばであり、通常身体の1つや2つの器官あるいは器官系統にのみ注意が集中する。体の機能と形態に関する固定化した妄想が存在してはならない。1つ以上の疾患の存在への恐怖(疾患恐怖)はここに分類すべきである。また、身体醜形障害、醜形恐怖、心気神経症、心気症もこの障害に含まれる。

確定診断のためには、以下のすべてが必要である。

  1. 繰り返される検索や検査により、何ら適切な身体的説明ができないにもかかわらず、現在の症状の基底に少なくとも1つの重篤な身体的疾病が存在するという頑固な信念、あるいは奇形や醜形があるだろうという頑固なとらわれ。
  2. 症状の基底に身体疾患や異常が存在しないという、数人の異なる医師の忠告や保証を受け入れることへの頑固な拒否。

診断においては、以下の障害との鑑別が重要


  1. 身体化障害:身体化障害におけるような個々の症状についてよりも、むしろ障害それ自体の存在、およびその将来の転帰に焦点がある。また、より多くの、しばしば変化する身体化障害の可能性を心配するのに対し、心気障害では一貫して挙げられる1つか2つの身体的疾患のみにとらわれていることが多い。
  2. うつ病性障害:もし抑うつ症状がとりわけ顕著であり、心気的考えの発展に先行するならば、うつ病性障害が一次性であろう。
  3. 妄想性障害:心気障害における確信は、身体的妄想(不快な外見あるいは奇形的身体であると確信している)を伴う統合失調症およびうつ病性障害における確信ほどには固定的なものではない。患者が不快な外見あるいは奇形的身体であると確信しているような障害は妄想性障害に分類される。
  4. 不安およびパニック障害:不安の身体症状は時に重篤な身体的疾病の徴候として解釈されるが、これらの障害においては、患者は通常生理学的な説明によって安心し、身体的疾病の存在を確信するには至らない。
【身体醜形障害】
Body Dysmorphic Disorder
  1. 外見についての想像上の欠陥へのとらわれ、小さい身体的異常が存在する場合、その人の心配は著しく過剰である。
  2. そのとらわれは、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  3. そのとらわれは、他の精神疾患ではうまく説明されない(例:神経性無食欲症の体型およびサイズへの不満)
【特定不能の身体表現性障害】
Somatoform Disorder Not Otherwise Specified
【身体表現性障害,特定不能のもの】
Somatoform disorder,unspecified

このカテゴリーは、どの特定の身体表現性障害の基準も満たさない身体表現性の症状をもつ障害を含む。その例をあげると、

  1. 想像妊娠:妊娠したという誤った確信で、客観的な妊娠徴候を伴っており、それには、腹部の膨らみ(しかし、臍は外反していない)
  2. 持続期間が6カ月未満の非精神病性心気症状についての障害
  3. 持続期間が6カ月未満の説明できない身体的愁訴(例:疲労感または脱力感)についての障害で、他の精神疾患によらないもの

特定不能の精神生理学的障害あるいは心身性障害を含める。



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